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出向

人選の合理性が条件 権利濫用となる恐れも・・・

  出向は,労働者が出向元と労働契約関係を持ちつつ,出向先において,その指揮命令を受けつつ労務提供するものです。出向においては,出向先と労働者との間にも労働契約関係が成立します。

 出向は,出向元と出向先がグループを形成している場合,人事交流に役立ちます。また,出向は,出向元と出向先が提携して事業を行う場合に効果があります。さらに,出向は,出向元で労働者を教育する代わりに,出向先で教育を受けさせることができます。出向は,余剰人員を出向先へ移動させることを可能にします。

企業が出向命令を出すには,まず,労働契約,就業規則,労働協約等の根拠が必要です。

さらに,出向の根拠規定においては,@業務上の必要によって,出向が命じられることがあることが規定されているのみならず,A出向先での処遇が労働者の利益に配慮して詳細に定めるのがベターです(例えば,出向の定義,出向期間,出向中の社員の地位,賃金,退職金,各種の出向手当,昇格・昇給等の査定)。なぜなら,出向は労働者にとって,労働条件や生活関係等に不利益が生じる可能性がありますから,その不利益に対し配慮することによって,出向が妥当なものになるからです。

出向命令についても,権利濫用の法理が適用され,出向命令が権利濫用であれば,出向命令が無効となります(労働契約法14条)。

出向命令が権利濫用になるか,については,@出向命令を出す前提となる経営判断が合理的か,A出向措置の対象となる者の人選基準に合理性があるか,B具体的な人選に不当性はないか,C出向労働者がその生活関係,労働条件等において著しい不利益を受けるか,D出向命令の発令に至る手続に相当性があるか,等が判断要素となります。例えば,協調性のない従業員を出向先に放逐する目的で出向命令を出すこと,労働者の募集が困難な関連会社に出向させる目的を持ち,その目的を隠しつつ労働者を採用し,採用後,速やかに関連会社に出向させることは,いずれも権利濫用になると考えられます。なお,出向命令を拒否された場合,他の労働者を出向させることせず,出向を断念した場合は,出向の必要性があったのか疑われるおそれがあります。特に,出向先での労働条件が著しく悪化し,社会通念上,労働者が受忍すべき程度を超える場合には,出向元は,出向手当を支給する等の措置を講じることにより,出向命令が権利濫用にならないようにするべきである。

企業にとって,出向命令が有効であることは,大前提です。のみならず,出向を命じられた労働者とのトラブルを回避するために,労働者に対し,出向の必要性,合理性,相当性を十分説明し,理解を得てから,出向命令を出すべきである。また,労働者が出向について持っている不安を解消することが必要です。

事前の説明もなく,労働者の不安を解消しないまま,出向命令を出すと,労働者から出向命令を拒否されることがあります。企業としては,出向命令の拒否に対しては,懲戒解雇等の懲戒処分をすることになりますが,安易に懲戒処分をすると,出向命令と懲戒処分が無効であることを理由として,労働者から訴訟が提起される可能性があります。訴訟にはコストがかかるので,出向命令の拒否に対しては,出来る限り労働者の翻意を促すべきです。

 判例によると,出向元が出向先の同意を得た上,出向関係を解消して労働者に対し復帰を命ずるについては,特段の事情のない限り,当該労働者の同意を得る必要はないものとされています。しかし,労働者が復帰命令を拒否する場合もあり得ますので,復帰命令を出す前に,労働者に復帰の意思,復帰の障害となる事情などを問い合わせ,特段の事情の有無を事前に調査するのがベターです。

 出向元と出向先との間で,事前に,出向契約を締結するべきである。その際,いずれが,労働者に対し,どのような権利を持ち,また,どのような義務を負うか,明確にするべきです。出向契約において,労働者に対する権利,義務が不明確であると,労働者との間において,トラブルが発生するおそれがあります。さらに,出向元は,事前に,就業規則に合理的な内容の出向規程を整備し,出向契約と就業規則の出向規程との間に矛盾が生じないようにするべきです。両者の間に矛盾があると,トラブルの原因になります。加えて,企業は,労働者に対し,入社時に,就業規則の出向規程の内容を十分説明し,理解させ,出向規程を定める就業規則を遵守することについて,労働者から誓約書を得ておくことが,トラブルの防止に繋がります。

 出向が原因で,労働者との間で,トラブルを起こすことは,企業の利益にはならないので,慎重に対処するべきです。