企業は,労働者に対し,休日と休暇を与えなければなりません(労働基準法35条,39条)。「休日,休暇に関する事項」は,就業規則の必要記載事項です(同法89条1項1号)。労働者の健康を守り,労働する意欲を持たせるためには,休日,休暇は不可欠です。休日,休暇は,労働効率を高めます。しかし,休日,休暇は,企業にとって,一時的に労働力が不足する事態をもたらし,繁忙期には業務の停滞を招くおそれがあります。そこで,企業は,どう対処するか,が問題です。
企業は,労働者に対して,毎週少なくとも1回の休日を与えるか(同法35条1項),あるいは,4週間を通じ4日以上の休日を与えなければなりません(同法35条2項)。予測可能性があることが企業の経営効率を高めるので,休日は,就業規則において,具体的に特定するのがよいです。企業は,日曜日や国民の祝日を休日とする義務はありません。また,週休2日制は,企業の義務ではありません。
変形週休制(同法35条2項)を採用すると,特定の4週間に4日以上の休日を与えれば,その中のある週には休日を与えないこともできます。ただし,特定の4週間の起算日を就業規則に定めなければなりません(労働基準法施行規則12条の2)。
36協定(労働基準法36条)を定め,かつ,休日労働を命じる根拠を労働契約,就業規則,労働協約等に定めれば,企業は,労働者に休日労働を命じることができます。その際,企業は,35%以上の割増賃金を支払う義務を負います(同法37条)。
休日振替え制を採用すると,企業は,労働者に対し,休日の到来前に,休日を労働日に変更し,別の労働日を休日に指定することができます。休日振替え制を採用するには,労働契約,就業規則,労働協約等の根拠が必要です。休日振替え制においては,36協定や休日労働の割増賃金は不要です。
有給休暇とは,労働者が6ヶ月間継続勤務し,全労働日の8割以上出勤すると,法律上当然に労働者に生ずる権利です。
労働者が有給休暇について,時季指定権を行使した場合は,企業はどうするか。企業は,時季変更権を行使して,請求された時季に有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」においては,他の時季に与えることができます(同法39条4項)。
しかし,判例は,使用者は,できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をするのが法の趣旨であるとしています。さらに,判例によると,勤務割による勤務体制がとられている事業場において,使用者としての通常の配慮をすれば,勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず,代替勤務者が配置されないときは,必要配置人員を欠くものとして「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たるということはできないと判示しています。
企業としては,上記の配慮義務を履行するために,予め代替要員を確保できる人員体制を確立する必要があります。さらに,代替要員を確保する準備時間が必要ですから,遅くとも休暇日の2日前には時季指定権を行使すべきことを就業規則に定めるのがベターです。
なお,判例は,労働者が会社と調整を経ないで,長期かつ連続の有給休暇の時季指定をした場合には,これに対する使用者の時季変更権の行使については,使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めています。
企業としては,時季変更権には限界があるので,繁忙期には企業の窮状を配慮できる協調性のある人材を採用することに努めるべきです。
企業は,労使協定により,5日を超える年休日について計画的に年休を付与することができます(同法39条5項)。労使協定によらなくても,企業は,年度当初に,事実上,個々の労働者の希望を聞きながら,調整するという方法が簡便です。
有給休暇を取得した労働者に対して,賃金の減額その他不利益な取扱いをしてはなりません(同法136条)。また,判例によると,企業が労働者に対し,有給休暇の取得を理由とする不利益取扱いをした場合,その不利益取扱いが公序に反して無効となる場合があります。したがって,企業は,労働者に対し,有給休暇の取得を事実上断念させるような不利益な取扱いをするべきではありません。
休日,休暇を労働者に与えることにより,労働者の健康を守り,労働者の意欲を高めることができます。したがって,休日,休暇についてのコンプライアンスを守ることが企業の利益になります。