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パワーハラスメント

謝罪の強制は避ける 始末書提出命令も要注意

  パワーハラスメント(以下,「パワハラ」という。)を防止するには,どうしたらよいでしょうか。

パワハラとは,上司が業務命令を口実にして,肉体的または精神的苦痛を与える嫌がらせをすることです。企業は,労働者に対し,業務命令をする権利があります。業務命令権は,企業と労働者との間の労働契約に基づいて発生します。労働者及び使用者は,労働契約に基づく権利の行使に当たっては,それを濫用することがあってはなりません(労働契約法3条5項)。したがって,業務命令権は,無制限のものではなく,労働者の人格,権利を不当に侵害してはならず,合理的と認められる範囲内で行使しなければなりません。パワハラは,業務命令権の濫用です。また,パワハラは,労働者の人格権を侵害するものです。

  パワハラの例としては,@就業規則の筆写などの無意味な作業を長期間命じること,A連続した勤務日に除草作業を命じること,B他の従業員から引き離された座席に座らせること等の裁判例があります。

  多数の同僚の前で,些細なミスや能力不足を理由に部下を繰り返し罵倒することもパワハラになるおそれがあります。上司は,労働者の人格に配慮して,指導しなければなりません。

  部下のミスに対して,始末書の提出を求めることもパワハラになるおそれがあります。始末書が事実関係の報告を求めるものであれば,業務命令によって命じることも許されます。しかし,始末書が労働者の意思に反して,強制的に謝罪や反省を求めるものであれば,パワハラになるおそれがあります。謝罪や反省は,自発的になされるべきであって,企業が強制すべきものではないからです。

  配置転換も,濫用すれば,パワハラになるおそれがあります。配置転換には,その必要性,合理性,相当性が存在しなければなりません。

  退職勧奨も,労働者が退職を拒否しているにもかかわらず,執拗に退職を迫れば,パワハラになるおそれがあります。

  特に,内部告発をした者に対しては,パワハラをしないように注意するべきです。なぜなら,パワハラをしたことを内部告発されるおそれがあるからです。

  パワハラが起こる原因としては,@上司と部下の関係は,企業内の単に職務上の役割関係にすぎないのに,上司が人格的にも自分が優越しており,部下を包括的に支配してもよい,すなわち,あらゆる命令が許されると勘違いしていること,A上司が部下を指導することは,当然であり,指導という名目があれば,どんな指導でも違法ではないという意識があること,B上司が,部下の育成よりも,自己の成績を上げることに専念していること,C上司が,いじめることを好む性格であること,Dパワハラを許容する企業風土があること等が考えられます。

  パワハラが違法となるか否かは,@業務命令に業務上の必要性があるか,A業務命令をした上司に不当な動機・目的があるか,B業務命令によって被る労働者の不利益の程度がどの位か,等を総合的に判断されます。

  使用者は,労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務すなわち安全配慮義務を負っています。パワハラが放置されると,労働者の心身の健康は損なわれてしまいます。パワハラの結果,労働者に心因反応が発生し,自殺に至った場合,使用者の安全配慮義務違反が認められ,その安全配慮義務違反と自殺との間の相当因果関係も認められた裁判例があります。

パワハラについて,安全配慮義務違反による債務不履行責任が認められないとしても,企業は,職場環境配慮義務違反による債務不履行責任または不法行為による損害賠償責任を負う場合がありえます。

パワハラの被害者から損害賠償請求の訴えを提起されることは,企業のイメージを低下させるとともに,訴訟のコストもかかります。

企業がパワハラに対する損害賠償責任を負わないためには,パワハラを許さない職場環境を調整し,維持することが必要です。すなわち,@パワハラをするおそれのある者を管理職に任命しないこと,A管理職に対し,パワハラをしてはならない旨の教育を徹底すること,B管理職の管理状況を日常的に調査すること,Cパワハラが違法であり,パワハラをした上司のみならず,企業にも損害賠償責任が発生するおそれがあることを全従業員に周知し,啓発すること,Dパワハラが発生したら通報することができる社内の窓口を設けることが必要である。

万一,パワハラが発生した場合は,事実関係を確認し,制止し,再発防止策など適切な処置をとるべきです。さらに,被害者に謝罪し,被害者の心身のケアをするとともに,示談をし,訴訟にまで発展することを回避するよう努めるべきです。